判例集掲載のご紹介(判例時報2225号)

当事務所(弁護士稲垣篤史)が担当し、地方自治体を提訴して勝訴した事件が、判例時報2225号(平成26年8月21日号)P.95に掲載されておりますので、ご紹介いたします。

1 事件の表示

損害賠償請求事件

名古屋地方裁判所平成22年(ワ)8591号

平成26年3月13日判決

2 判示内容

本件は、愛知県知事から廃棄物処理施設の設置許可を受けこれを建設した事業者(当事務所の依頼者)が、施設完成後に知事による違法な改善命令及び設置許可取消処分を受けたことから、国家賠償法に基づき、愛知県を被告として、損害賠償請求をなした事案である。名古屋地方裁判所は、県が事業者に命じた改善命令は法の要件を欠くなどして違法であり、その違反を理由とする施設の設置許可取消も違法であるとして、知事の職務上の注意義務違反を理由に、県に対し、約12億3000万円及び遅延損害金を賠償するよう命じた。

3 判決後の経過

名古屋高等裁判所に控訴されたが、同裁判所による和解勧告により、平成27年3月16日、県から事業者に対し解決金として13億8600万円を支払ってもらうことを内容とする和解が成立した。この額は、県の賠償としては過去最高額とのことである(平成27年3月13日付中日新聞)。

4 コメント

いわゆる「嫌忌施設」は地元住民に反対される宿命にあります。地元住民の反対運動に対し、行政がどのように対応すべきか(地元住民の生の意思を重視するか、あるいは、法を貫くか)は、難しい問題であり、行政による許認可制度全般が直面する現実的課題と言えます。しかし、社会に必要な施設は、法の要件を備える限り、建設・稼働は許されてしかるべきものです。この点、本件の場合、県は、かつては一旦事業者に産業廃棄物処理施設の設置許可を与えておきながら、その後、地元住民による建設反対運動が高まると、行政指導を強くするようになり、法の予定しない踏み越えた改善命令を下し、最終的に、その改善命令違反を理由に、違法に設置許可を取り消しました。昔から、「行政は間違ったことはしない」という神話がありますが(行政の「無謬性」、「無瑕性」などと言われます。)、この判決では、このような「神話」に流されることはなく、客観的な証拠の積み重ねによる事実を基礎として、県の違法行為について的確に認定してもらうことができたと考えております。この基本的判断は、控訴審でも変わることはなく、和解につながりました。

 

先にご紹介した裁判例の事件(議員除名処分取消等請求控訴事件)においてもそうでしたが、司法プロセスを経ることにより、多数決原理(地元住民の多数意思)では危殆に瀕していた依頼者の権利・利益を擁護することができ、「法の支配」の実現に、微力ながら協力できたものと考えております。

 

(文責:弁護士稲垣篤史)

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